職人のナレッジを動画で伝える! 言語化しづらい技術の継承に奮闘する原田左官工業所
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職人のナレッジを動画で伝える! 言語化しづらい技術の継承に奮闘する原田左官工業所

株式会社PRAZNA(プラズナ)が、さまざまな企業のナレッジマネジメントやDXの取り組みを紹介するマガジン『ひとりの「知ってる」を、みんなの「知ってる」に』。第3回は、店舗内装から一般住宅の左官工事、タイル工事まで手がける有限会社原田左官工業所の事例を紹介します。

大工やとび職と聞くと、職人気質な姿をイメージする人が多いでしょう。そんな職人が集まる現場では、「先輩の背中を見て覚えろ」といった人材育成が主流です。しかし近年は、「若手が入社してもすぐ離職してしまう」「技術の継承がうまくいかない」などの問題が起こっています。

そこで新たな制度を導入したのが、原田左官工業所。左官の職人技を動画で撮影し、若手が繰り返し見て学べる仕組みを作ったといいます。人材育成をデジタル化したことで生まれたメリットや、言語化しづらいナレッジ(職人技術)を継承するための苦労について、同社の代表取締役社長・原田宗亮さんに聞きました。

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有限会社原田左官工業所 代表取締役社長
原田宗亮さん

部品メーカーでの営業を経て、2000年に父が経営する原田左官工業所に入社。2007年に代表取締役就任。女性の活用や、左官職人を短期間で育成するシステムにより目覚ましい効果をあげ、NHKから取材を受けるなど注目されている。提案型左官業をコンセプトに、オリジナリティあふれる手法で業界に新風を巻き起こしている。著書に『新たな“プロ”の育て方』(クロスメディア・マーケティング)など。


「先輩の背中を見て覚えろ」では新人が長続きしない


――貴社では、短期間で左官職人を育成する「動画トレーニング」を取り入れているとお聞きしました。その詳細をお伺いする前に、従来の人材育成の手法や問題点について教えてください。

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昔は「先輩の背中を見て覚えろ」という形式がほとんどでした。育て方のプランはまったくないし、そもそも“一から技術を教える”という概念が、左官業界にはあまりなかったんです。「自分たちも苦労して覚えてきた。それが当たり前だ」と思っていましたね。


――なるほど。では、「このままだとマズいな」と思った理由は?

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20年前までは、新人採用に困らない状態でした。毎年5、6人くらい入社するのが当たり前で、たくさん採用してやる気がある人だけ残ればいい、という考え方だったんです。しかし少子化で、応募者がどんどん減ってきました。一方で、左官がどんな仕事なのかちゃんと調べて、左官職人になりたいという強い意志を持つ人は増えてきた。応募者の特徴が変わってきたんです。

せっかく強い意志を持って入社したとしても、「背中を見て覚えろ」だとうまくいきません。真面目で素直な人は、掃除しろと言われたらずっと掃除ばかりしてしまい、「先輩から指示されていないことは、やってはいけないのかな」と考え、実際の技術を覚えられず辞めてしまうことも。

新人が定着しなければ、職人の高齢化が加速して、左官業の継続も危うくなってしまいます。ベテランの技術を下の世代にうまく継承できる育て方はないかと思い、模索しました。
 

動画を使って理論的に教えるほうが、成長スピードが早い


――その後、動画を使った人材育成にたどり着いたのですね。トレーニング動画は、どんな内容なのでしょうか?

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ベニヤ1枚の壁に職人が土を塗る動画です。とにかく動きをマネするためのもので、解説のテロップはあえて入れていません。塗り方の細かいコツは、先輩が一緒に動画を見ながら伝えていきます。

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実際に研修で使われているトレーニング動画。
職人がベニヤの壁を塗る姿が記録されている
(写真提供:原田左官工業所)

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ゴルフのレッスンビデオを見ればすぐ上達するかというと、そんなことはないですよね。動画は技術を覚えるきっかけにはなるけど、同時に理論も学ばないと、何をどうマネすればいいか分かりません。「手をこう動かすのはなぜか」「うまくできない理由はなにか」など、経験豊富な先輩が新人に問いかけながら教えます。「教える」より「気づかせる」という表現が近いかもしれません。

また、新人の動きを録画して、お手本の動画と見比べながら反復練習をしています。自分の頭ではちゃんと動いているつもりでも、お手本と比べて同時に再生すると違いが分かる。意識できれば直せるし、技術に直結します。最近の若い人は、動画を活用して理論的に教えてあげたほうが、成長スピードは早いですね。

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動きを録画して見直すことで、課題を理解しやすくなる
(写真提供:原田左官工業所)


続けるうち、反発していた職人も認めてくれるように


――動画トレーニングは、すぐ導入できたのでしょうか? ベテラン職人からの反発もあったのでは?

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もちろん、反対意見はありました。約1カ月、塗り壁の動画トレーニングをするわけですが、最初は「稼いでいないじゃないか」「あいつら遊んでるだけだ」と言われましたね。

確かに現場へ行けば、新人でも何かしら役に立つ印象があるかもしれません。しかし、道具の名前は知らないし、目的も理解できない。実際は活躍できない期間が何カ月もあるわけです。

であれば、研修でしっかりコテの使い方や材料の名前を覚えたほうが、すぐに現場で活躍できます。何年か継続していくうちに、反発していたベテラン職人さんも「トレーニングを経験した新人のほうがいい」と認めてくれるようになりました。

――動画トレーニングを取り入れたことで、どんなメリットがありましたか?

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以前だと、技術を身に付けるスピードが人によってバラバラでした。先輩となるベテラン職人の指導は、「新人にずっと下働きをさせる」「すぐに実作業を任せる」など、人によってまちまち。先輩との相性が良いときもあれば悪いときもあり、誰の元で働くかによって新人の成長に差が出ていました。

動画トレーニング導入後は、入社半年後の技術が一定レベルにそろうようになりましたね。あとは、即戦力とまではいきませんが、現場で早く活躍できる人が増え、結果的に生産性が上がりました。


手で施工したものには、数値化できない「味」がある


――貴社はデジタル技術を使った人材育成に成功していますが、建築業界の全体でDXの取り組みは進んでいるのでしょうか?

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コンクリートを平らにするロボットや、手作業を遠隔操作できるシステムが開発されています。ただ、暑くて湿気がある日と、冬場寒くて乾燥している日では、コンクリートや漆喰の乾き方が変わります。気温や湿度の変化を察知して、材料の配分をうまく変えないといけません。そこまで機械化するのはまだ難しく、課題が残っています。

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――それはやはり、経験者でないと難しいのでしょうか?

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職人さんの経験や勘に頼る部分はまだ大きいですね。

そもそも、人の手で塗る作業自体が非効率的だし、パネルを立てたほうが早いでしょう。しかし、手で施工したものには、数値化できない「味」や「雰囲気」があります。

「左官が仕上げたほうが、味わいがあるから」という理由で依頼を受けるケースは、今も増えているので。デジタル化が進んでも、手作業の良いところは残るのではないでしょうか。


ナレッジには「デジタルで共有できるもの」と「現場で人が教えるべきもの」がある


――職人が個々にもっている知識やスキルを見える化したり、継承したりするためには、どうすればよいのでしょうか?

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単純に、「これができる/できない」で判断できるものであれば、形にして残せるでしょう。ウチでいえば、「○○さんは防水の仕事ができる」「ブロック工事が得意」などのスキルを表にまとめています。

一方で、「漆喰を洋風に塗る」というケースだと、技術だけでなくセンスも問われます。そこは社内で共有しながら理解するしかありません。当社では毎朝、現場へ行く前に集まって、周りの人から話を聞くことに重きを置いています。

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――施工に関するノウハウは、データベース化していないのでしょうか?

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明確なものはないですね。あったほうがいいとは思いますが、職人さんの中には、スマホを使ったり写真を撮ったりすることが苦手な人もいるので。そもそも技術を言語化する能力がないと、文書として残せないですよね。

職人の世界には、文章で表現しにくいことや文書化が負担になってしまう事例がまだまだ多い。そこは工事管理者がフォローしてあげなければなりません。

――確かに、職人さんの技術やコツを言語化・文書化するのは難しそうですね。

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言語化が難しいので、先輩となるベテラン職人にとっても、新人に一から教えるのはハードルが高いわけです。かといって、何も教えないままだとナレッジが共有されません。

動画トレーニングによって、初期段階の技術は教えられます。一方で、ある程度の技術レベルに達した人は、現場だからこそ身につく勘やコツもあるはずです。動画で教えることと現場で教えること、その両方によって人材育成や技術継承ができるのではないでしょうか。

――「デジタルを使って教えられるナレッジ」と「現場で人が伝えなきゃいけないナレッジ」の2種類がある、と。

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そうですね。とくに建築業界は、現場で人が教えるからこそ学べる・気づけることがまだまだたくさんあると思います。デジタルツールと現場での教育、うまく使い分けていきたいですね。


取材を振り返って

体で覚える職人仕事は、DXやナレッジマネジメントから遠い存在だと思っていました。今回、原田左官工業所さんの取り組みを伺って、建築業界はDX化とナレッジ活用の可能性がまだまだあると感じました。特に職人技は言語化しにくいため、人材育成が難しい……。スポーツでも、「プレーヤーとして技術がある選手と、教えるのがうまい選手は別物」という話を聞いたことがありますが、まさに職人の世界も同じですね。言葉で伝えるのが難しいベテラン職人のナレッジを、動画トレーニングで補い、結果的に新人の成長スピードアップにつなげた同社の取り組みはとても素晴らしい。技術継承に課題を感じている業界こそ、ベテランのナレッジを管理して人材育成に活用することで、将来の担い手の確保も期待できそうですね!(PRAZNA佐藤さやか)


取材・文:村中貴士
編集:水上歩美/ノオト
撮影:井上依子



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